第2章 関東地方におけるカスリーン台風の被害を知る

1 どんな被害があったの?

利根川における被害

このカスリーン台風による死者は1,100人、傷者は2,420人にのぼりました。特に上流域の被害が大きく、群馬県の赤城山麓や栃木県の足利市においては土石流や河川の氾濫が多発。群馬県で592人、栃木県で352人の死者が出ています。
利根川流域全体では、家屋流出・倒壊は5,736戸、家屋の浸水は303,160戸、田畑の浸水は176,789ha など、甚大な被害をもたらしました。利根川の堤防被害としては、本川及び支派川で合わせて24か所、5.9kmの堤防が決壊。このうち渡良瀬遊水地周辺の堤防は、本川からの逆流と渡良瀬川の出水により水位が異常に上昇し、13か所で決壊しました。また、決壊には至らなかったものの堤防が崩壊した場所は、全部で10km以上になりました。 各河川の決壊により、道路や鉄道、農業にも深刻な被害が生じました。地域住民は生産基盤が失われ、様々な社会活動が困難になるなど被害は甚大なものでした。

  • 9月16日午前零時20分、埼玉県東村(大利根町/現:加須市)の
    利根川右岸堤防が決壊。
    濁流はいよいよ魔の手を広げ始めた(9月17日 栗橋町上空より)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • 水魔は辺り一面を水の平原に変えた
    (9月17日 幸手町(幸手市)上空より)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • 常磐線・亀有駅周辺の惨状(9月20日 葛飾区)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • カスリーン台風県別死亡者数
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

荒川における被害

荒川では、9月15日午後7時30分、熊谷市久下地先において約100mにわたり堤防が決壊しました。
荒川から溢れ出た濁流は中小河川を次々と堤防決壊に追いやりながら元荒川沿いに南下し、17日には利根川の堤防決壊による濁流と合流して更に被害を拡大させました。

群馬県では・・・

  • 破壊された宮関橋(大胡町) 現:前橋市
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 国道17号・上越線の線路まで水没
    (沼田市岩本付近の利根川右岸)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 破壊された東武日光線の線路
    (9月18日 海老瀬村(板倉町))
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • 沼尾川と前入沢との合流地点の惨状。
    土石流により深く削られた川底が衝撃的(赤城村)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

栃木県では・・・

  • 倒壊した新川グランドのスタンド(稲荷町)

  • 思川と支流の与良川の氾濫で水没した生井地区(小山市下生井地区)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

参考URL:http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000663783.pdf

  • 水浸しになった足利市内
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 渡良瀬川と支流の袋川の堤防が決壊
    (足利市・旧高島屋角付近)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

埼玉県では・・・

  • 決壊より3日後の東村(現:加須市)の決壊口付近
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 破壊され折れ曲がった栗橋駅構内のレール
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局
    (「埼玉県水害誌付録写真帳」より)

  • 軒先まで水につかった川口市・善光寺境内の建物
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 迫りくる水に、自宅を前になすすべもなく(川口市)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

東京都では・・・

  • 足立区の東武伊勢崎線五反野駅付近
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 米軍から提供を受けたボートで警察官が出動(葛飾区)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 中川堤防が決壊(現在の中川公園付近)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)
    埼玉新聞社出版局

  • 増水の荒川。濁流が鉄橋のすぐ下まで達している中での常磐線の試運転
    (9月21日 足立区北千住・綾瀬間)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

復旧状況 ~悲しみを乗り越えて復興へ~

  • 川口市と市内鋳物問屋組合共催による
    水害地慰問隊の第一陣が生活物資を満載して現地へ急行した
    (9月23日 川口市)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • 宮内庁差回しのモーターボート「はやぶさ丸」に菊紋の旗を揚げ、
    被災地を行く昭和天皇。
    その背中合わせにリラックスしているのは
    埼玉軍政部司令官ライアン中佐
    (9月21日 埼玉県東村(大利根町/現:加須市)付近)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • 水害の怖さは出水による直接的な被害だけに止まらない。
    氾濫の直後から赤十字防疫班の活動は始まっていた
    (9月24日 東京都葛飾区)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • 利根川の破堤箇所にどんどん杭が打ち込まれていく。
    内務省(建設省)は決壊堤防の応急修理に1億円を計上したと発表
    (9月23日 埼玉県東村/現:加須市)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • ほぼ完成した締切工事の現場(10月28日 埼玉県東村)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局

  • 多数の来賓を招いて行われた竣工式。利根川堤防決壊より8カ月、
    延べ56万人を動員し、1億7千万円を投入した難工事は
    ここに一応完成をみた(昭和23年5月23日 埼玉県東村/現:加須市)
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」(1997年)埼玉新聞社出版局
    (「埼玉県水害誌付録写真帳」より)

コラム①:利根川東遷の歴史とカスリーン台風による洪水の進行
~洪水流は、昔の利根川に沿って流れた~

古来、利根川は太平洋ではなく、江戸湾(現在の東京湾)に注いでいました。現在のような流路となったのは、数次に渡る瀬替えの結果で、現在の利根川の骨格がつくられました。
この東遷事業の目的は、江戸を利根川の水害から守り、新田開発を推進すること、舟運を開いて東北と関東との交通・輸送体系を確立することなどに加えて、東北の雄、伊達政宗に対する防備の意味もあったといわれています。
カスリーン台風の洪水進行状況、浸水範囲をみると、洪水は昔の利根川に沿って、被害を拡大させたことがわかります。

  • 1000年前の利根川

  • 東遷が完成したときの利根川

  • カスリーン台風による浸水区域
    出典:「報道写真集 カスリーン台風」
    (1997年)埼玉新聞社出版局

出典:http://www.ktr.mlit.go.jp/tonejo/tonejo00185.html

コラム②:カスリーン台風と同時代の台風
アイオン台風【1948年(昭和23年)9月】
9月7日に発生したアイオン台風は、16日には東海道沖を経て房総半島に上陸。その後、三陸沖を東に進みました。アイオン台風は、時期や経路はカスリーン台風に似ていますが、中心気圧、風速はカスリーン台風を上回っていました。台風による破堤等の大被害はありませんでしたが、利根川本川筋及び渡良瀬川で床上829戸、床下浸水1523戸の被害をもたらしました。
キティ台風【1949年(昭和24年)9月】
8月28日に南鳥島の南東130kmの海上で台風となったキティ台風は、31日の夜に小田原市付近に上陸。その後、前橋市付近を通過して、柏崎市から日本海に抜けました。台風通過時から通過後にかけて関東地方の西部および北部山岳地帯に豪雨をもたらし、鬼怒川では上流域で600mmを超す豪雨をもたらしました。また、東京湾の西側を台風が北上したため、強い南風と満潮が重なり、東京湾では高潮が発生。江戸川河口付近では、海岸堤防と旧江戸川堤防が決壊し、大きな被害をもたらしました。
洞爺丸台風【1954年(昭和29年)9月】
函館港から出港した青函連絡船の洞爺丸が暴風と高波により転覆し、乗員乗客1,139名が死亡するなどの大惨事となりました。
狩野川台風 【1958年(昭和33年)9月】
秋雨前線を刺激して大雨を降らせ、伊豆半島中部を流れる狩野川は大氾濫となり、流域に甚大な被害をもたらしたため「狩野川台風」と名付けられました。また、神奈川県や東京都でも、市街地の浸水や造成地のがけ崩れなどにより、大きな被害が発生しました。
伊勢湾台風 【1959年(昭和34年)9月】
台風通過と満潮が重なった伊勢湾で観測史上最大の高潮が発生、名古屋市南部をはじめとする湾岸の低地内が浸水し、また前日からの大雨で木曽川などが洪水を起こしていたこともあり、空前の被害となりました。